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執筆者の写真Hirokazu Kobayashi

食べない遺伝子組換え植物:その是非?*

更新日:7月10日

小林裕和

(株)グリーン・インサイト・代表取締役/静岡県立大学・名誉教授・客員教授

 

映画 「オッペンハイマー」 が話題を呼んでいる。ロバート・オッペンハイマー (1904年〜1967年) は、第二次世界大戦中にロスアラモス国立研究所・初代所長として、マンハッタン計画を主導し原子爆弾開発において指導的役割を演じた。科学技術の発展は人類に繁栄をもたらしてきたが、原子核物理学から原子爆弾が生まれた。この反省から、遺伝子操作技術の活用に対し、関連分野の研究者らは自らに規制を課した。これが、1975年カリフォルニア州のアシロマで開催された 「アシロマ会議」 である。1994年に遺伝子組換え農作物の第一号として、日持ちがするトマト 「フレーバ・セーバ」 がアメリカ合衆国で登場した。遺伝子組換え農作物は、日本へは1996年から輸入が開始されたが、日本ではヒトへの生食に供するのではなく、食用油の原料、あるいは家畜飼料としての利用が中心である。その後、30年弱が経過したが、遺伝子組換えによるが故のヒト被害と断定できるものはないと認識する。例えば、ジャガイモの芽にはソラニンという毒素が含まれており、これによる被害は遺伝子組換えとは区別しなければならない。

 

カトリックは人工的な遺伝子組換えを嫌うのではないかという思い込みがあった。しかしながら、世界14億人のカトリック教徒の頂点に立つ 「ローマ教皇庁立科学アカデミー」 は、2009年に食糧供給のための遺伝子組換え農作物を推奨した。また、2015年に国連サミットにおいて採択されたSDGs (持続可能な開発目標) においても、同様の意向が読み取れる。2011年アメリカ合衆国農務省は、遺伝子組換えシバを遺伝子組換えの規制外と容認した。食に供さない植物は、経口摂取での危険性はないが、生態系保全の観点からの懸念が挙がる。遺伝子組換えで導入されている薬剤耐性遺伝子が花粉を介して飛散したとしても、栽培シバの場合は自殖が主であり、他殖の場合も同種のシバしか受精しない。すなわち、自然生態系を無造作に侵食するものではない。

 

植物の生育には水が不可欠であるが、塩集積土壌では植物の根外の浸透圧が高くなり、水分の吸収は困難になる。弊社では、モデル植物シロイヌナズナを用い、塩耐性の遺伝子を見出しているが、この耐塩植物は水分欠乏に対する耐性を獲得していた。すなわち、乾燥耐性遺伝子として活用し得る。その仕組みとして、活性酸素除去能力が上がること、さらに遺伝子発現や膜輸送に携わる多くの耐塩性遺伝子の介在を発見した。このような遺伝子を導入したシバが遺伝子組換えの規制外となれば、各種活用が見込まれる。乾燥耐性シバを用いれば、散水量を減らすことができ、屋上シバとしての活用の場合、土壌の保持水分量を軽減でき屋上への荷重負荷を減らすことができる。また、道路法面への移植においても、散水量を軽減できるという利点が挙げられる。





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