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執筆者の写真Hirokazu Kobayashi

植物で製造:低コストでヒトに優しいバイオ医薬品!*

更新日:10月19日

小林裕和

(株)グリーン・インサイト・代表取締役/静岡県立大学・名誉教授・客員教授


日本における死因の第一位は 「がん」。また、日本における慢性関節リュウマチの罹患者は82.5万人に及び、これらは高齢者が深く関わる疾病である。これらの治療を目的として、患部への注射投与で高い実績を誇るのがバイオ医薬品 (タンパク質製剤) である。この需要は高く、その世界市場は年間20兆円規模と見積もられる。私が静岡県立大学で学府長や副学長を務めていた当時、理事長の本庶佑先生 (1942年〜:2018年ノーベル生理学・医学賞受賞) にお世話になった。本庶先生は、癌治療薬 「オブジーボ」 を開発され、この世界売上は1.5兆円 (2022年) となっている。特許は基本的に15年で失効するため、オブジーボ以外の多くのバイオ医薬品の特許は、既に失効している。バイオ医薬品の後続医薬品は 「ジェネリック」 と呼ばず、構造が似ていれば 「バイオシミラー」 と呼ぶ。この種の後続医薬品は、品質が保証されるなら後は価格競争となる。私は植物の遺伝子とその発現制御機構を研究してきたので、遺伝子組換え農作物の作出は射程圏内に入るが、取り分け日本では、消費者がこれを受け入れない。そこで、植物に何を作らせようかと考えるとき、最も付加価値が高いのが医薬品となる。植物にバイオ医薬品を生産させると、1/40にまでコストが抑えられると試算される。

 

バイオ医薬品のうち、世界売上第一位が、ヒト慢性関節リウマチあるいはクローン病の治療に有効なhTNF-α (ヒト腫瘍壊死因子-α) 抗体 「アダリムマブ」 (商品名:ヒュミラ) である。バイオ医薬品は、遺伝子組換え技術を用い哺乳類培養細胞で製造されることが多い。弊社では、私たちが開発した葉緑体工学を用いて、この哺乳類培養細胞を植物体中の葉緑体に置き換え、さらに赤色LEDによる 「光スイッチ」 と言う独自の技術を導入する。私たちは、シロイヌナズナの光化学系が680 nmと700 nmの光を識別して応答することを世界の主導的科学雑誌 "米国科学アカデミー紀要 (PNAS)" に発表しており、これはその事業化である。ヒト細胞以外の生産系でタンパク質に付与される糖鎖は、ヒトにおいて異物抗原として認識される可能性が高い。一方、葉緑体工学では糖鎖が付加しないため、ヒトに優しい。すなわち、ヒュミラ後続医薬品を無糖鎖低分子量タンパク質として、タバコを用いた生産に成功している。先ずはこの事業化を目指しているが、この技術は世界市場総額30兆円以上のバイオ医薬品のすべてに対して適用可能であり、将来に向けてさらに大きな社会貢献が期待される。





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